僕には変な能力(?)が憑いている。
それは、その時の選択が自分にとって正解か不正解かがわかる何かが憑いていることだ。
僕はその存在を『親指様』と呼んでいる。
親指様は文字通り、僕の親指を動かしてYESかNOを告げてくる。
目の前に困った状況がある時とかに「解決するためにこういう方法をとるのはどうか?」と親指様に尋ねると、僕の親指は上下に動く。上に動けばYES。下に動けばNOだ。言うことを聞くか否かは僕の意思に委ねられている。強制力はない。
けど、この親指様が示してくるYES・NOには間違いがない。少なからずこの時点まではそうだ。試しに親指様がNOと出したことを行ったら損をしたり嫌な目に遭ったりした。また、これは不正解の選択だろうと思うことでも親指様がYESというから選んだら良い結果になることもよくあった。定期的に試して確認しているが、毎回例外はなかった。
いつからこんなことになったのかは覚えていない。
また、親指様とは別に、たまに身体が勝手に動いて正解の選択肢を取らせるという現象に遭うこともある。僕はこれを『自動操縦様』と呼んでいる。正解を掴む精度は自動操縦様のほうが高い。親指様がNOということでも自動操縦様によって選択されたNOならばYESになるほどだ。親指様が選ぶ正解以上の大正解をいつも導き出す。それだけに滅多に訪れない何者かだけど。気にしない。
僕はもともと色々考えてはメモに残す人間だった。
日月神示を読み始めた初期の頃にはよく「お前は考え過ぎだ。アホになれ」という内容の文章が印象強く目に入ってきたものだった。
常に正解を選びたくて思考を続けてきた過去の僕と、正解選びを親指様・自動操縦様に任せている現在の僕とではどちらがマシな人類なのだろうか......。考える機会は減り、思考力が奪われていくような気がして不安になることもある。
しかし、それほど心配でもない。
何故ならあまり積極的に親指様の判断力に頼ろうとすると正解選択の精度が落ちるからだ。
例えば買い物をしているとする。
買うものを買ってから自分でロクに考えもせずに「あと何か買ったほうがいいものある?」と親指様に心の中で尋ねたとしよう。(※以下会話)
僕「あと何か買ったほうがいいものある?」
親指様「YES」
僕「それってどこの棚にあるの? あそこ?」
親指様「NO」
僕「それならあっちのコーナー?」
親指様「YES」
(親指様の指定するコーナーの商品棚まで歩く)
僕「じゃあこの棚のどれを買うの? これ?」
親指様「NO」
僕「ならこれ?」
親指様「NO」
僕「じゃあこれ?」
親指様「NO」
僕「これ? これ? これ? これ?」
親指様「NO、NO、NO、NO」
僕「ぜ ん ぶ N O じゃ ね え か!!!!」
その場所で得るものがあるというのに、そこに行ったらどれも得るものではないと告げられるという......。
僕はこれを『矛盾した指令』と呼んでいる。僕が思考力を放棄しすぎると起こる現象だ。こういうとき、僕は何もせずに帰ることにしている。だってどうしようもないもの......。
この現象に遭った最初の頃は「狐狸や低級霊の仕業かな?」と思ったりもした。ネットで同じような事例はないか検索もした。けれど同じものはなかった。近いものでいったら低級霊の場合は耳元で声が聞こえるというものだけど、そういったことはない。
親指様は命令してこない。俺の気持ちを汲んだ上でYES・NOを出す傾向も見られる。俺自身でもこれはおかしい、これは嫌だということに関しては拒否しているし。NOだと言われてもやりたければやるし。
これが存在なのか能力なのか現象なのか実はよくわかっていない。
自分に何かが憑いているとか思いたくない。なので今のところはぼんやりと日常の一部として認識しているのみ。長年の付き合いにはなっているけれど......。
俺も最近ではついつい自分で考えるよりも親指様に判断を委ねてしまう。
といっても、YESかNOでしか答えられない存在なので、質問を考えるのはこちらの仕事だけどね。注意深く質問を重ねると、それまでNOだった判定がYESに変わったりすることもある。それで結局は最初の判定通りにしていれば一番良かったと思う展開もある。自動操縦様に関してはこちらではどうしようもないので気にしない気にしない。
お前は何者かと質問したこともあったけど、神様でも仏様でもご先祖様でも悪魔でも天使でも天狗でも高級霊でも下級霊でも眷属神でも動物霊でもないらしい。
特定の名称をあげても該当しなかった。これも矛盾した指令に準拠した解答な気はするけれど。(※もし正体を知りたくて質問する時には同じ質問を三回すると良いらしい。霊も三回目になると嘘をつけなくなるそうな。精神世界においてはそういうことになっている)
なので親指様は親指様でしかない。胡散臭い。胡散臭すぎる。けれどつい尋ねてしまう。クサヤか。
正体わからないと俺は親指様を疑ったままになるんだけどなぁ......。
俺よりも親指様のほうが先の展開を読めているのは事実のようだけど。そんなことは力のある悪霊でもできるようだしな......。未だに距離感と付き合い方を見定めきれない......。
余談だけど、俺は眠ると悪夢を見やすい。
でも寝る前にひふみ祝詞を三回唱えると悪夢を見ずに済んでいる。(※ひふみ祝詞とは日月神示に記されている祝詞のこと)
数え間違いで祝詞を二回しか唱えていなかった結果悪夢を見たときでもひふみ祝詞を何度も唱えると目が覚める。どんなに重たい金縛りも解ける。攻撃力高すぎだろ。
なので試しに親指様にひふみ祝詞を唱えてみた。だけど、居なくならない。
ひふみ祝詞が効かなかったってことは......良いやつ......? あるいは悪夢と金縛り専用の必殺祝詞なのかもしれない。